テーマ:通年「地域創生と鉄道の役割」
第12回「阿武隈急行を利用した、地元商店街活性化とは」
会場:保原市民センター(福島県伊達市)
■阿武隈急行株式会社 社長賞 【成城中学校・成城高等学校】
左)阿武隈急行株式会社 冨田代表取締役社長
副賞:ヘッドマークデザイン権
授与式:11月19日(日)決定!!
成城鉄道研究部の活性化案は、5つの提案で構成されていました。鉄道そのものが主役の提案は観光列車創設と東北新幹線阿武隈急行線直通運転の2つで、あとは、鉄道沿線もしくは周辺の活性化案でした。鉄道だけに囚われずに広く地域の特徴に配慮され、良く練られた提案であったと思います。
伊達ももの里マラソン開催時期変更の提案は、一見鉄道や沿線活性化には、あまり関連性がない提案のようですが、「8月5日午後2時に福島県伊達市梁川で最高気温40.0℃を観測しました。」というニュースは皆さんも記憶されていると思います。熱中症アラートが頻繁に発出される猛暑のなかで活性化案を考えるなかで、「伊達ももの里マラソン」開催時期が、9月3日で大丈夫なのか?との考えを持ったのは、参加する地元の人々に寄り添ったものだったと思います。どの学校も、たくさんの案を準備していることと思います。しかしプレゼンテーションの時間は8分しかなく、発表できる企画案は限られています。この条件のなかでもプレゼン発表に至ったのには、よほど訴えたかった提案だったのだろうと推察いたします。大人の世界では、一度決まったことを覆すことは難しい場合がほとんどです。中止や延期、時期や内容を変更するのは大変です。多くの関係者に連絡し説明し説得しなければなりませんので。中高校生なら、参加者の健康を心配し、裏付けとして月別平均気温・最高気温データをあげて、「変更してはどうか」との提案を、素直に「確かにそうだな」と受け入れ易いのです。
商店街の空き店舗を宿泊施設として利用し、飲食、入浴などは商店街にある既存施設を利用する「商店街ホテル」提案は、阿武隈急行利用者には、割引キャンペーンを付与するなど地域が一体となってサービスを提供し、地域全体が活性化する可能性を持った素晴らしい提案です。空き店舗という負資産を活用し、宿泊施設を増やすことで、様々な業種の商店が集まってできた「商店街」という既存施設の持つ機能を上手に利用し活性化を図っています。1階を受付、2階をホテルとする提案は、くつろぎ空間を作る工夫と思いますが、商店街の持つ売り手と買い手が対面で言葉を交わしながらコミュニケーションを取り、楽しみながら買い物をしていた「商店街」の目に見えないサービスを考えると勿体無い気がします。ベンチを置いて、地元の方々とおしゃべりしたり、郷土料理の作り方教室や販売などもおこなえるコミュニケーションの場として利用すれば、もっと活性化できると思います。
沿線に多く存在するビニールハウスを利用して発電する活性化案は、夏の間、ハウス内の温度が高くなりすぎて農作業に適さないことを発見し、負の特徴をなんとか正の向きにできないか知恵を絞った末に行き着いたステンレス容器に水を入れての温度差発電法ですが、既存の農業用水路、川、沼湖など拡張範囲も広く、将来全国的にグリーンエネルギー発電の一翼を担う存在になるかもしれません。幼い頃より環境問題に関心を寄せ、教育を受けている中高生なので、ペルチェ素子利用に行き着いたのだと思います。
トロッコ列車創出案は、いくつかの学校でも提案されていましたが、余剰となっている8100系を利用し、初期費用を抑え、窓をはめ込み式にして着脱可能とし、四季を通じて、冬季にも運行できるよう工夫されており、沿線周辺ツアーも開催し地域全体の活性化を目指しています。
東北新幹線直通運行案は、突拍子もない案のようですが、阿武隈急行線の電圧は交流20000V 東北新幹線は、交流25000Vでも、秋田新幹線の路線では同じく交流20000Vと共通しているので使える!との発想から生まれたと考えられます。発表は、福島・槻木間を走行する案でしたが、仙台までつなげば、東北新幹線の補完路線としての役目の果たせ、仙台空港線へのアクセスも向上するでしょう。新幹線車両は在来線では使えないと考えてしまわずに、資源保護、環境保護の観点からも将来、他の地域でも活用を促す発想だと思います。
■伊達市長賞 【芝学園 芝中学校・芝高等学校】
左)伊達市 佐藤副市長
副賞:桃の恵み 1ケース
芝学園の活性化案は、福島市と仙台市都市間交通の利便性を考えると高速バスに利があると冷静に分析し、存在意義を別の形で考えてはと提案するものでした。
観光列車創出案も単に、阿武隈急行線内を運行させるものではなく、JR線にも乗り入れて、福島〜仙台を直通させるもので、具体的に料金は3000円と設定し、アテンダントが車内で車窓案内、グッズ・お土産物販売も行うもので、雇用創出、市場開拓にも配慮されています。景観優美な富野丸山間では、ゆっくり景色が楽しめるように速度を落としての運行提案も盛り込まれています。雪美列車の提案など、地元では静かに春の訪れを待っている季節の新たな観光資源の再発見に至るかもしれません。車内販売だけでなく、時間に余裕をもった停車駅での地元産品の販売など鉄道事業者だけでなく、沿線地域にも利益が還元せれる工夫がなされています。演芸や民謡の披露もできるかもしれませんね。ドローンで撮影した映像をSNSを利用して積極的に配信し、阿武隈急行線のポテンシャルをさらに引き出す宣伝活動にも触れる思慮深さは素晴らしいと思います。
「片道途中下車きっぷ」販売提言は、利用者にはありがたい便利なきっぷのアイディアだと思います。具体的に使い方も考えられており、企画過程での部員の皆さんが楽しく熱く語り合っていた姿が思い浮かびます。観光型MaaS導入の提案は、システム使用料負担だけで済み、乗車券ばかりでなく2次交通や宿泊施設、観光施設、食事などの予約も事前にできるので、近い将来もっと利用されて行きそうですね。
車内販売の提案は、2次交通利用時にポイントを付与し買い物時に利用できるものでした。2次交通にも配慮を怠らない優れたものです。車内販売利用時にもポイントを付与し2次交通利用時にも使えるようにするともっと販売量増加が見込めるかもしれませんね。
車内販売時に生産者が同乗して、商品を説明販売する提案を聞いていて、これこそ「商店街」での売り手と買い手のコミュニケーションを楽しみながらの買い物の姿だったなと気づかされました。
「商店街活性化」にもう1提案あれば、さらに素晴らしい企画案だったと思います。
■ 全国高校生地方鉄道交流会 代表理事賞 【福島工業高等専門学校】
左)全国高校生地方鉄道交流会 大溝代表理事
副賞:開催ポスター
福島工専の活性化案は、福島県内に在る学校らしく、統計資料による分析ばかりでなく、沿線各地に赴き実踏し企画立案されています。
分類すると、鉄道機関は1次交通。駅から目的地移動に用いる交通機関は2次交通となりますが、多くの地域で1次交通と2次交通の連携が上手に取れていません。どの地域にも「○○鉄道利用促進協議会」などの名称の団体は存在しますが、鉄道の利用促進を計る目的で設置されており、毎年の報告書に記載されているのは、経年の利用者数の変化や定期券利用率、年代別利用者割合など過去の統計的資料を並べるだけで、悲しいことに鉄道利用促進のための提言などはほとんど書かれてはいません。
日常の移動を思い浮かべてみて、利用者の動線を考えれば、鉄道の駅は通過点であり、駅から目的地は離れているということは容易に気づくことですが、2次交通との連携を視野に入れた提言まで記載された報告書は稀有な存在です。鉄道・バス・タクシーに加え、将来は現在は違法とされている交通手段を合法に変換することで、新しい手段を創設する必要があるかもしれません。
日頃ICカードやスマホ利用に慣れている若者は、「便利な機能をもっと上手に利用してはどうか?誰でも簡単に使えるものですよ。」と提案に盛り込む傾向があります。この考え方は間違ってはいないと思いますが、読み取り機設置初期投資額や端末情報集中処理システム使用料にまで言及している提言は少ないのが現状です。
なかでも、回数券に着目した企画は素晴らしいものでした。回数券なら紙に判子を押すだけで発行できますし、誰でも、複数の人が同時にでも、何より簡単に扱えます。表紙に有効期限が記載されているわけですから、券面を見せれば商店街で様々なサービスまで割引になるとなると購入者もバス・タクシーも商店街も活性化すると思われます。
実際に街を歩き、回数券に駅周辺の地図を付けたら、利便性が増すなどと利用者寄り添った視点の優しさが高く評価されました。
【第12回 全国高校生地方鉄道交流会 総評】
第12回は、福島県伊達市に本社がある阿武隈急行のご支援のもと、昨年度同様現地参加方式とリモート方式の2方式で、2023年8月18日から20日まで3日間の日程で開催することができました。8高校が地元を訪れ、3高校がリモートで参加しました。初日は、福島県立伊達高校で交流会が開催され、生徒会による地元紹介、新聞部は交流会特集の号外を発行してくださり、地元産の桃の食べ比べも設定された入念に準備された交流会で、質疑応答も活発に行われ、参加者一同楽しい機会持つことができました。
続いて訪れた車両基地見学には、伊達市長須田博行氏もお出ましになり、「最終日の活性化企画案プレゼンテーションに期待している」とのお言葉も頂戴しました。見学会は、体験イベントも数多く準備され、作業の手順や目的の説明も簡潔で分かり易いものでした。憧れの車両を間近で見たり、触れることもできました。この体験は心躍るものだったのですが、車庫内での工具類の収納方法や壁面・床面などの安全管理上の注意喚起標語や矢印などにも注目して、どのような工夫が設けられているかにも、もっと関心を持って欲しいと思います。社員の皆さんは、全力で参加生徒たちを迎えてくださいました。思いに深く感謝いたします。
2日目は、保原駅2階の保原コミュニティーセンターで、阿武隈鉄道職員の方々との交流会が開かれ、鉄道員の様々な職務や苦労話など日頃聞く機会のない貴重な話を伺うことが出来ました。続いて、伊達市集落支援員、東城氏の案内で商店街を探索し、「路面電車を偲ぶ会(安齋武会長)」のご協力で、保存車両に乗車する機会にも恵まれました。阿武隈急行はじめ、伊達市の皆様のご配慮ご支援に感謝いたします。
3日目は、各チームが準備した活性化案をプレゼンテーションしてくださいました。残念だったのは、配信環境の具合が整わない折に、リモート参加のチームの音声が聞こえなかったり、会場からの呼びかけが聞こえなかったりする事態が起きたことです。改善策として今後、リモート参加の皆さんには、配信環境に不具合が起こった場合に備え、8分間のプレゼンテーション映像をあらかじめ提出してもらい、もしもの時にその映像を流す準備をしておけば、スムーズに運ぶと考えております。具体策を検討中です。
活性化案は良く考えられており、利用する素材、媒体、機能も若者が日常触れているものが多く使われていました。様々な新しいものが社会に普及してきていることが、皆さんの発表を通して確認することができました。
今回のテーマは「阿武隈急行を利用した、地元商店街の活性化とは」でした。商店街を活性化する案は、複数挙がりましたが、商店街そのものを利用した対策案は、予想より少ないと感じました。商店街は、これまで鉄道の駅近くや街道沿い神社仏閣の近辺に、たくさん存在していましたが、中高生は、買い物も大型スーパーや近場のコンビニ、もしくはNet Shoppingで済ますことが多くなり、商店街での買い物を経験したことがない世代になったのかなと思います。買い物の形態が変化し商店街がかつての賑わいを失いつつある現実に向き合う活性化案立案は、とても難しい課題だと思います。皆さんの近隣の商店街を探索し、店舗の種類や配置、買い物の様子を観察したうえで、商店街を利用した活性化案を披露して欲しかったところです。成城中学高等学校鉄道研究部の「商店街ホテル」構想は、空き店舗をホテルにリノベーションして宿泊施設とし、飲食、娯楽、情報などは既存の店舗に提供してもらうもので、空き店舗という負の財産を上手に活用し、既存資源の活用を図る素晴らしい活性化案でした。受付を1階、2階を寝室に分離することを提案していました。「商店街」の特徴のひとつ:言葉を交わす対面販売を考慮すると、一階に地元の人とのコミュニケーションスペースを作ることが提案に盛り込まれれば、もっと良いものとなったと思います。全国各地に存在する「商店街の活性化」は、汎用性も継続性も高いもので、頑張って考えるに値するものだと思います。「商店街ホテル」構想が、広く人々の関心を集めることを願っています。
今回、鉄道系YouTuberの「西園寺」さんが、交流会で初めて講演してくださいました。開催直前まで参加を伏せていたにもかかわらず、多くの方が会場を訪れてくださいました。講演の内容も、大学生の立場から、年齢差があまり大きくない中高生に、ご自分の体験を含め、仲間との絆の大切さを分かりやすく伝えて頂きました。ありがとうございました。
写真部門の入賞作品発表が、20日に行えず申し訳ありませんでした。改善策を検討しています。色彩の美しい作品がたくさんエントリーされました。酷暑のなかでの撮影ということもあり、駅撮り、車内撮りも多かったのですが、これは皆さんの冷静で賢い判断によるものだと思います。ただ、列車の前面を中心に据えた写真が多く、個性が感じられるものは、そんなに多くはありませんでした。列車だけを写しこむのではなく、背景に農作業をしている人を入れたり、あぜ道に軽トラが1台あるだけで物語が生まれます。青い空には白い雲、視線を下ろすと、緑の中に咲く花々、実る果実、垂れる稲穂など、福島は、いたるところにあります。列車だけでなく、人の営みや自然の造形も被写体に加えて、物語が伝わるように被写体を選ぶともっと面白い作品になると思います。タイトルもAB○〇形ではなく、思いを伝える素敵なタイトルを付けてあげてください。
来年度は、さらに調べを尽くし、地元の人々の生活に寄り添った活性化案と写真が集うことを願っています。参加者の皆さん、支援者の皆さん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
一般社団法人全国高校生地方鉄道交流会 代表理事 大溝貫之